櫻谷文庫2018ゴールデンウィークの公開展示【特別公開】平成30年度「春期京都非公開文化財特別公開」Oukoku Bunko in Kyoto

 

櫻谷文庫(おうこくぶんこ)

 

2018ゴールデンウィークの公開展示

 

【特別公開】平成30年度「春期京都非公開文化財特別公開」

 

Oukoku Bunko in Kyoto

 

                    撮影:特記なき以外すべて 浦 典子

 

「京都非公開文化財特別公開」は昭和40年にはじまった文化財愛護の普及啓発事業だ。

 

以下の19の場所において開催されている。

 

春・秋の年2回開催しており今回で通算73回目の開催だ。

 

 1.上賀茂神社

本殿《国宝》、権殿《国宝》、高倉殿《重文》にて「孝明天皇賀茂行幸絵馬」・「紺紙金字法華経開結共(ほけきょうかいけつとも)」の展示、他

京都市北区上賀茂本山

2.大徳寺本坊

唐門(からもん)《国宝》、方丈(ほうじょう)《国宝》、玄関《国宝》、狩野探幽(かのうたんゆう)筆襖絵《重文》、庭園《国史跡・特別名勝》、法堂(はっとう)《重文》、他

京都市北区紫野大徳寺町

3.櫻谷文庫(おうこくぶんこ)初公開

木島櫻谷(このしまおうこく)旧邸【和館・洋館・画室】《国登録・市指定文化財》、木島櫻谷の作品、伊藤若冲の作品、他

京都市北区等持院東町

4.仁和寺金堂・本坊

金堂《国宝》、御本尊阿弥陀三尊像、本坊にて「錦御旗」・「戊辰戦争絵巻」・「戊辰戦争時の軍服」を公開

京都市右京区御室大内

5.北野天満宮

海北友松筆「雲龍図屏風」《重文》、他

京都市上京区馬喰町

6.養源院(ようげんいん)【相国寺山内】初公開

本堂(薩摩藩野戦病院となり、刀傷も残る)、御本尊薬師如来立像、秘仏毘沙門天立像、庭園、他

京都市上京区相国寺門前町

7.岩倉具視幽棲(ゆうせい)旧宅9年ぶり

岩倉具視幽棲旧宅《国史跡》、主屋(鄰雲軒)、対岳文庫にて「具視公御一代絵巻」(部分)などを公開予定

京都市左京区岩倉上蔵町

8.下鴨神社

東西本殿《国宝》、三井神社《重文》、大炊殿《重文》、神服殿《重文》、他

京都市左京区下鴨泉川町

9.金戒光明寺(こんかいこうみょうじ)山門

山門《府指定文化財》二層内部、天井画蟠龍(ばんりゅう)図、他

京都市左京区黒谷町

10.知恩院大方丈・小方丈・方丈庭園

大方丈《重文》、小方丈《重文》、狩野尚信(かのうなおのぶ)・狩野信政筆方丈襖絵、方丈庭園《市指定名勝》、他

京都市東山区林下町

11.龍吟庵(りょうぎんあん)【東福寺山内】10年ぶり

方丈《国宝》、開山堂、大明国師坐像《重文》、表門《重文》、重森三玲作庭の庭

京都市東山区本町

12.壬生寺(みぶでら)13年ぶり

御本尊地蔵菩薩立像《重文》、庭園《市指定名勝》、長谷川等伯筆「列仙図」《重文》、伊藤若冲奉納狂言面「僧」、他

京都市中京区壬生梛ノ宮町

13.東寺五重塔

五重塔《国宝》初層内陣

京都市南区九条町

14.城南宮(じょうなんぐう)

光格天皇御即位絵図、皇都春景図、菊花御紋章吹散、薩摩藩隊旗・錦の御旗巡行図、明治天皇城南宮行在所図、他

京都市伏見区中島鳥羽離宮町

15.大黒寺(だいこくじ)

本堂、平田靭負(ひらたゆきえ)の墓、西郷隆盛と大久保利通の会談の間、薩摩九烈士の墓、他

京都市伏見区鷹匠町

16.長建寺(ちょうけんじ)

本堂、御本尊秘仏八臂辨才天(べんざいてん)像、宇賀神将(うがしんしょう)像、弘法大師像、飯綱(いづな)大権0現像、大田垣蓮月の短冊、他

京都市伏見区東柳町

17.法傳寺(ほうでんじ)初公開

本堂、薬師如来坐像、御本尊阿弥陀如来坐像、四天王像、不動明王像、戊辰戦争関係品(砲弾・短銃など)、他

京都市伏見区下鳥羽中三町

18.妙教寺初公開

本堂、御本尊三宝尊体、戊辰戦争関係品(砲弾、砲弾貫通跡など)、他

京都市伏見区納所北城堀

19.石清水八幡宮

御本殿《国宝》、御社殿《国宝》、織田信長寄進「黄金の樋(とい)」・左甚五郎(ひだりじんごろう)作「目貫めぬきの猿」、他

八幡市八幡高坊

 

 

      この中から、櫻谷文庫(おうこくぶんこ)が初めて公開されると聞き、筆者はさっそく取材に上がった。

 

公益財団法人櫻谷文庫 代表理事で木島櫻谷のひ孫にあたる門田理(かどたおさむ)夫妻が丁寧に説明して下さった。

 

櫻谷文庫は、今までも不定期で公開されていたが、この「京都非公開文化財特別公開」としては初めてという意味だ。

 

明治から昭和に活躍した四条派の日本画家、木島櫻谷(このしまおうこく)。

 

四条派の伝統を受け継いだ技巧的な写生力と情趣ある画風で、「最後の四条派」と高く評価された画家だ。

 

当時京都画壇の大家であった今尾景年(いまおけいねん)に弟子入りし、景年は「櫻谷」の号を与えた。

 

また同じ頃、儒医・本草学者・写生画家だった山本渓愚(やまもとけいぐ)に儒学・本草学・経文漢学を学ぶ。

 

櫻谷は「論語読みの櫻谷さん」とあだ名されるほどであった。

 

作品は、弱冠二十歳で宮内庁に買い上げられ、その後、天皇にも買い上げられる。

 

文展の第1回から第6回まで、二等賞4回・三等賞2回と連続受賞する。

 

この頃の文展では一等賞は空席だったので、実質の一等賞だ。

 

20代後半には、西洋画にも強い関心を持っていたようだ。

 

そして、竹内栖鳳と共に京都画壇の人気の作家になる。

 

「櫻谷さん」と親しまれ、若い頃から作品は高い評価をなされており、ファンも多かったため、絵画はすぐさま売れた。

 

そのため、豊富に画材を集めることができたのだ。

 

現在600種もの顔料が粉末のまま残されており、現在、解析中だ。

 

群青を焼き、さまざまなトーンの色をつむぎ出し描いた作品、「寒月」。

 

少しずつ、櫻谷の技法が解明されつつある段階だ。

 

 以下の画像はフォトギャラリーにて参照されたし。

 

《寒月》左隻 大正元年(1912) 京都市美術館蔵 画像協力:櫻谷文庫

 

まだまだ、櫻谷については書き足らないが、56日(日)の会期終了まで時間がない。

 

この特別公開を皆様にぜひお知らせしたいので、説明を簡略化することをお許しいただきたい。

 

 

 

櫻谷文庫は、旧木島櫻谷邸宅跡で京都市北区の衣笠、衣笠山の中腹に位置する。

 

櫻谷は1912年、36歳の時に衣笠の土地を買い、この家を建てた。

 

1900坪の広大敷地だ。

 

しかし、この近辺では決して広い方ではないという。

 

2017年、京都市文化財保護審議会で、櫻谷文庫の建物(和館、洋館、画室が文化財指定と諮問された。

 

大正期の建物としては、御幸町教会、川崎家住宅についで3棟目の指定だ。

 

玄関をくぐると櫻谷の住居であった日本家屋の一軒家が現れる。

 

すべての窓の枠に、ラウンドをつけている。

 

そして、竹の意匠の壁板。

 

これらの家は、すべて櫻谷が設計し、デザインした。

 

櫻谷という画家の作品そのものなのだ。

 

60年前の梅干しやおくどさん、櫻谷の孫の落書き、櫻谷の吸っていたエジプトたばこなど当時のままだ。

 

筆者は櫻谷にあやかりたく許可を得て食べてみた。

 

かなりしょっぱかったが、食べられた。

 

今まで食べて見た人は5人しかおらず、筆者で6人目だそうだ。

 

コレクターでもあった櫻谷は、美しいものを多く集め、家に飾っていた。

 

江戸時代後期の漢学者・儒学者、村瀬栲亭(むらせ こうてい)の臨書「蘭亭序」(らんていじょ)。

 

蘭亭序は、王羲之が書いた書道史上最も有名な書作品だ。

 

これについて筆者は、以下で記しているので参照されたし。

 

☆日中国交正常化40周年 東京国立博物館140周年 特別展「書聖 王羲之」

 

    http://artnews.blog.so-net.ne.jp/2013-03-02

 

 

 

櫻谷は、村瀬栲亭が好きだったと聞く。

 

 

 

村瀬栲亭の臨書「蘭亭序」 画像協力:櫻谷文庫

 

また、すべてのガラスは大正ガラス。

 

ガラスが柔らかい光の屈折を生み、和ませる。

 

100年以上、一枚も割れずに悠久の年月を刻むのは、奇跡に近い。

 

櫻谷の師、が南禅寺法堂の瑞龍を描いた時の下絵のうちの一枚が初公開されている。

 

この下絵は合計4枚あるうちの2枚を櫻谷が譲り受け、大切に保管していたものの一枚。

 

1枚は南禅寺に 、1枚は今尾景年の旧宅である料亭瓢樹にあるという。

 

が、南禅寺にあるというが今現在、確認はきちんとされていないということなので、櫻谷文庫の2枚は大変貴重なものだ。

 

2枚を櫻谷に譲るということは、いかに今尾景年が櫻谷をかわいがっていたかがわかるエピソードだ。

 

さらに隣接して主に応接室として使われていた洋館がある。

 

アールヌーボーのオルタを彷彿とさせるアールについた階段。

 

オルセー美術館のアールヌーボー部門の展示物と勝るとも劣らない素材の高質感と大工仕事だ。

 

日本のアールヌーボー、京都にあり、だ。

 

 

 

近年、泉屋博古館で櫻谷の展覧会が開催された時、門田夫妻と泉屋博古館の学芸員による再調査に行なわれ、さまざまな作品や資料が見つかった。

 

例えば、作品「かりくら」。

 

かりくらとは狩り競べのこと。2幅で1対、それぞれ高さ250cm173.8cmもある大作だ。

 

4回文展三等を取った、櫻谷代表作のひとつだ。

 

しかし、ローマ万博に出展した後、100年以上ゆくえ不明だった。

 

櫻谷の遺品目録をつくるために、旧邸宅を調べていたとき、竹竿に巻かれていた。

 

虫食いや絵の具の剥落などがあったが、2年の歳月をかけて、2017年、見事に修復されている。

 

櫻谷は、動物画で特に評価が高い画家だ。

 

今にも動き出しそうな馬は、写生の鍛錬の成果だ。

 

櫻谷 「かりくら」    画像協力:櫻谷文庫

 

その「かりくら」に触発されてか、櫻谷は白い馬の人形をオーダーしている。

 

よく見ると白い馬の胴体は「ちりめん」で作られているのだ。

 

その他、櫻谷が生前、孫娘のためにこしらえた、白むくに金泥銀泥で絵を描いた着物も発見された。(注 今回は展示されていない。)

 

また、「画三昧」(1931年帝展出品)が、展示されている。

 

櫻谷の自画像と言われるが、犬養毅(号は木堂)の写真の載った新聞の切り抜きが下絵と共に保存されていたので、犬養毅をモデルにしたのかもしれない。

 

『櫻谷は、シンプルなこの絵に「人の足をひっぱったり、おもねいたりしてはいけない。ただ、一生懸命、絵を描くのみ。」という思想を入れ込んだに違いない。』と門田夫妻は言う。

 

この絵の下絵は100枚もあり、試行錯誤の様子が感じ取れる。

 

この作品に打ち込む櫻谷の仕事ぶりがわかろう。

 

櫻谷 「画三昧」

 

櫻谷の家に伝わる、端午の節句のしつらえも見もの。

 

櫻谷の姉の長男の長男、門田元(はじめ)に櫻谷が送った甲冑。

 

人形に季節甲冑ではなく、人間が着る甲冑のミニチュアで、本物と同じように作ってある。

 

甲冑職人に依頼して作らせたものだ。

 

櫻谷の優しい人柄を示す出来事だ。

 

今は、これをメンテナンスできる職人も極めて少ないという。

 

こうして日本伝統の技が廃れて行ってしまう。

 

何とか食い止めなければ・・・と心から願わざるを得ない。

 

今回の展示では、櫻谷が蒐集した、3本ある若冲の作品のうち、「布袋図」など2本が出展されている。

 

どちらも他のどの美術館、展覧会にも展示したことのない作品だ。

 

若冲「布袋図」

 

 

 

さらに、迫力ある「獅子図」も展示。

 

しかし、獅子の遠くを見つめるUPの作品には、穏やかさを感じさせる。

 

櫻谷「獅子図」

 

 

 

さらに、離れには、櫻谷のアトリエ。

 

内部は64畳分もある大画室。南面は一面窓。

 

廊下を入れると80畳。

 

画家のアトリエとしては、日本最大級という。

 

こちらの窓枠と欄間にも丸みがつけられている。

 

画室前の唐楓。

 

櫻谷の絵「角とぐ鹿」画中の木はこちらを写生したもの。

 

また、昔、画室の前には大きな池があったという。

 

56月になると新緑の緑色が池に反射して部屋に緑色の光が、

 

秋になると、池に反射して赤い色の光が差し込んで来ていた。

 

櫻谷は、絵を描くとき、その光をうまく利用していた。

 

今も室内に紅葉の赤い色が入ってきてきれいだという。

 

門田夫妻は、管理、維持、調査解析などもろもろの仕事を行ない、毎日忙しい。その激務は想像に難くない。

 

門田理によると今年の秋の公開は予定していないという。

 

物理的にも肉体的にも体力の限界なのだろう。

 

何とか手助けはできないものか・・・。未来の美術のために。

 

現在、2018ゴールデンウィークの公開展示中だが、この機会を逃すと次はいつ鑑賞できるかわからない。

 

櫻谷の作品は、近年、さらに評価が高まって来ている。

 

長い年月の間になくなったり、傷んでしまったりで画家の過ごした家が公開されているところは大変少ない。

 

「櫻谷さん」の絵画は素晴らしいと筆者の祖父は幼い頃に言っていた。

 

年表を拝見していて1941年に京都市美術館で行われた「木島櫻谷遺作展」に祖父は行ったのではないだろうか、とふと思う。

 

大人になって「櫻谷さん」の邸宅跡に行けるとは想像だにしなかったが、叶えることができた。

 

櫻谷文庫を訪れ、また、美術館で櫻谷の絵画を愛でる。

 

そして、それを孫子に語っていただきたい。

 

幼くとも祖父が語ったことは覚えているものだ。

 

そんな筆者と同じような体験を多くの人に味わっていただきたいと思う。

 

100年以上も分割、解体されずに現存する櫻谷邸。

 

そのためには多くの人の苦労や尽力が存在する。

 

美術を愛する者として、それに応えて行きたいものだ。

 

画家の愛した家を訪問できる貴重な体験ができるチャンスだ。

 

櫻谷が絵画に懸けた思い、家に懸けた思い、家族に懸けた思いを感じ取ってもらいたい。

 

櫻谷文庫が、22世紀、23世紀と長く保存されて行くことを心より願う。

 

櫻谷 「剣の舞」

 

ちなみに泉屋博古館分館(東京・六本木一丁目)で木島櫻谷生誕140年記念「木島櫻谷展」Part2が4月14日から5月6日に開催中だ。

 

☆泉屋博古館分館

 

https://www.sen-oku.or.jp/tokyo/program/index.html

 

 

 

この「春期京都非公開文化財特別公開」開催の趣旨は、少し硬いが、文化財を公開することにより、市民あるいは広く国民的な活用に資し、且つそれに基づいて文化財愛護の関心を高めるということ。

 

拝観料や入場料は、貴重な文化財を未来に伝えるため、保存修理・維持管理等に充当されている、という。

 

しかし、まだまだ、足りないのが現状。

 

一人一人が参加をし、できることをしてサポートして行くことで未来に文化財を引き継いで行ける。

 

ぜひ、積極的に参加しよう。

 

☆公益財団法人 櫻谷文庫 サイト

 

http://www.oukokubunko.org/index.html

 

https://www.facebook.com/okokubunko

 

https://twitter.com/ okokubunko

 

■ 公開 2018年4月27日(金)から5月6日(日)に公開。 9時から16時受付。

 

■ 入館料 大人800円 中高生400円 

 

■ 場所 櫻谷文庫(木島櫻谷旧邸)

 

■ お問合せ 075-461-9395 携帯080-5197-1117

 

■ 主催 公益財団法人櫻谷文庫

 

共催 公益財団法人京都古文化保存協会

 

協力 朝日新聞社

 

 

 

 

 

☆【特別公開】平成30年度「春期京都非公開文化財特別公開」

 

【期 間】

 

      2018年(平成30年)427日(金)~56日(日)

 

【時 間】

 

       午前9時~午後4時(拝観受付)

 

【拝観料】

 

        1か所大人800円、中高生400

 

※「東寺 五重塔」は一部拝観料が異なる場合があり。

 

【その他】

 

         事前の予約は不要。15名以上の団体様は事前に 事務局まで連絡のこと。

 

 【お問い合せ】

 

           公益財団法人京都古文化保存協会事務局

 

            電話075-754-0120FAX075-754-0122 (平日 午前10時~午後5時)

 

☆財団法人京都古文化保存協会サイト

 

     http://www.kobunka.com/index.html

 

 

 

☆ご意見・ご要望・ご感想のお願い

 

 よりよいサイトづくりのため、読者の皆さまからのご意見を常時受け付けております。

 

   あて先 :loewy@jg8.so-net.ne.jp

 

   件名:アートニューズ ご意見・ご要望・ご感想

 

   とお書きの上、ご意見・ご要望をお送り下さいませ。

 

   お待ちいたしております。 

 

   

 

☆お知らせ

 

いつもご愛読下さいまして、まことにありがとうございます。

 

皆さまからのあたたかい励ましのメイル、大変ありがたくうれしく思っております。

 

多くのかたからメイルをいただいておりますため、ご返信ができないこともございますが、何卒お許し下さいませ。

 

※人物名の表記は、敬称略。

 

※画像および記事の無断転載禁止