特別展  人間国宝・桂米朝とその時代

 

特別展 

 

人間国宝・

桂米朝とその時代

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桂米朝「百年目」(平成5年) 撮影:宮崎金次郎

 

 

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                      以下 撮影:浦 典子

 

平成273月に惜しくも亡くなった人間国宝・桂米朝。

 

昭和20年代から平成にかけて活躍したこの不世出の落語家だ。

 

この桂米朝の人物像に、芸能人としてだけではなく、文化人としての側面にもスポットを当てて迫る展覧会が、兵庫県立歴史博物館で好評開催中だ。

 

 筆者は遅ればせながら、取材に伺った。姫路に伺わなければと思いながら、なかなか足が向かなかったのだ。

 

 しかし、父方の祖父が早く伺えと言っている気がして、さっそく伺った。

 

  実は、祖父は米朝のファンで、幼い筆者にその話術の「間(ま)」と話し方の上品さをとうとうと語っていたからだ。

 

 関西弁は、関東のかたからは、「きつい」とか「怖い」と言われる。だが、本来の関西弁は柔らかいのだ。そのお手本が、米朝だ。

 

祖父は、米朝の落語のことを「口承文学」と筆者に言っていた。そのため、文学史の授業で「口承文学」を学ぶ前から、筆者はその単語を知っていたのだ。

 

文字で書いたものだけでは、その細かいニュアンスは伝わらないのだ。

 

だからこそ、口伝えでつないで行くことがいかに大切かを祖父は筆者に語っていた。

 

 また、母は、筆者が東京の全日空の訓練所に行く際、標準語をしっかりマスターして来るようにと送り出した。大阪配属が決まっているので、「東京で生活するということを楽しめ、卒業するまで帰って来るな。」とも言った。

 

ほとんどの同期生は、ゴールデンウイークに帰省したが、筆者は東京に残った。

 

 この展覧会を拝見していると、米朝が東京で生活し、その地で師と出会ったことがわかる。

 

関西を離れて東京から関西を俯瞰した時、米朝が何を感じたのか、筆者は深い共感を覚えた。

 

 

 

 2015年、東日本大震災からの復興を祈念し、仙台市博物館において開催された、

 

「東日本大震災復興祈念特別展 国宝 吉祥天女が舞い降りた! -奈良 薬師寺 未来への祈り-」の展覧会で、筆者は記事に書いて読者にお知らせしたいと思い、以下に記した。

 

    http://artnews.blog.so-net.ne.jp/2015-06-05

 

その後、龍谷美術館で村上太胤(むらかみ たいいん)管主(かんす)にお目にかかる機会があり、筆者の記事を大変喜んで下さった。

 

前管主の高田好胤(たかだ こういん)管主にも、仮想電子国家「関西電子共和国」初代副大統領を筆者が務めていた際、「関西電子共和国」に薬師寺を建立していただき、お世話になったことがあった。

 

その後、しばらく途絶えていたが、薬師寺とまたご縁を結ぶことができたのだ。

 

そして、昨年、村上太胤管主の晋山式にお招きいただき、貴重な体験をさせていただいた。

 

今から思い起こせば、ものごころがついた頃から薬師寺の高僧が我が家に月一回、ご教授とお経をあげに来て下さっていた。

 

この機会に母と薬師寺について話すと、母が嫁に来る前から我が家にいらっしゃっていたとのこと。

 

高僧をお迎えする時、我が家ではお越しになる頃を見計らって表門の閂(かんぬき)を外し、打ち水を行なった。座敷は掃き清められ、塗りの高価な机が用意された。

 

祖父は玄関から出迎え、母と筆者と女中は、勝手口から出迎えた。

 

そして季節季節に合わせた和菓子をお出しし、母と筆者は台所で同じものをいただいた思い出がある。

 

祖父に呼ばれると母も筆者の座敷に入れてもらえ、お話をお聞きすることができたことが記憶にある。

 

高僧が来られるのは、たいてい午前中なので、筆者が幼稚園に行くようになるとなかなかお目にかかることはできなかったが、たまに帰って来ている時には、参加させてもらえた。

 

高田好胤前管主の晋山式に父母と祖父と我が家の女中までもが出席していたことがわかったのだ。

 

また、祖父の葬儀には、我が家の菩提寺の僧が取り仕切る中、高僧にも関わらず、それらの僧に任せていらしたと母は言う。

 

檀家を持たない薬師寺は、「写経勧進」を行なっていたためだ。

 

今、初めてその訳がわかった。

 

祖父は、午前、写経や書道に親しみ、日曜には、筆者も机を並べ習字を行なった。

 

墨のすり方などを教えてくれたものだ。

 

高田好胤前管主と筆者は、そんなことも全く知らずに披露パーティーの時などで当時、お話していたのだ。

 

 東北での薬師寺展について書きたいと思ったのもこのようなご縁があったからとしか思えないのだ。

 

前置きは長くなったが、薬師寺と米朝のつながりにおいて大変重要な掛け軸がこの展覧会に展示されている。

 

 この展覧会の担当学芸員は、中川 渉(なかがわわたる) 兵庫県立歴史博物館事業普及課長だ。

 

伺うと米朝のご子息だという。

 

 筆者が、この掛け軸のことを知っており、一度は拝見したいとずっと思っていたので、展示しているかどうかお聞きすると、あっさり「展示していますよ。」とわざわざ案内して下さった。

 

中川 渉 兵庫県立歴史博物館学芸員によると、米朝と高田好胤前管主とはテレビで共演し、米朝には「お世話になっているので何か御礼をしたい。」と好胤は言っていたという。

 

米朝が薬師寺を訪問した時、高田好胤前管主の師、橋本凝胤(はしもと ぎょういん)前管主の書による「本来無一物」の掛け軸が目に留まり、たいそう気に入ったという。

 

米朝は「これをいただきたい。」と言ったが、好胤は相手が誰であろうと譲れないとかたくなに断った。ところが、米朝が「本来無一物。これが僧のあるべき姿では・・・。」と言ったところ、好胤も一本取られたのか返答に詰まり、掛け軸は米朝に譲渡されたという。

 

今は、形見分けで南光が所蔵している。

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その他、落語・演芸・上方文化などに関する著作や原稿など、貴重な資料が所せましと展示されている。

 

上岡龍太郎は、図録の中で「100年に一人の天才」と記している。

 

今は、引退してお姿が見られないのは大変残念だが、上岡龍太郎は大変頭も切れ、筆者が尊敬したやまない人物だ。

 

彼の文章を読むことができ、大変うれしい限りだ。

 

その文からは、米朝に対するこの上ない尊敬の念が感じ取られる。

 

米朝が天才なのは、その話芸だけではない。弟子を養成し、上方文化を復興させたのだ。

 

「名選手、( 必ずしも、) 名監督にあらず。」と言われる中、その両方をできる人はなかなかいない。

 

ちょうど兵庫県立歴史博物館の隣の姫路市立美術館では、「ブリューゲル、レンブラント、ルーベンス バロックの巨匠たち」展が開催中だが、ペーテル・パウル・ルーベンス(Peter Paul Rubens)の絵画が展示されている。

 

ルーベンスがなぜ偉大かというと、彼も大画家であるだけでなくアンソニー・ヴァン・ダイク(Anthony van Dyck)やヤーコブ・ヨルダーンス(Jacob Jordaens)など高名な弟子を育てている。

 

ちょうど姫路市立美術館では、ルーベンスと弟子の絵画が並べて展示されている。

 

外交官としても活躍したルーベンス。

 

米朝は、政治のにおいの全くない、文化の外交官だ。

 

そして、落語家の社会的地位を文化の面からも押し上げた。

 

人間国宝としてふさわしい人物だ。

 

 

 

取材後、母に電話すると、「先生をしてはるとは聞いていたけど、お目にかかれたなんてご縁があったんやね。よかったねえ。」と嬉しそうであった。

 

仕事柄、アーティストのご遺族にインタビューさせていただくことが多い。

 

筆者がつっこんで聞くこともあるが、アーティストは忙しかったからであろうか、あまり家族に話していないことが多いのだ。

 

ほとんどのご遺族は、「自分からもっと聞いておけばよかった。」とおっしゃる。

 

我が家の生き証人に話を聞くきっかけを作って下さったこの展覧会に心から感謝する。

 

なお、米朝はその著『落語と私』(ポプラ社)の中で師の桂米団治から言われた言葉として、以下を記している。

 

大変、含蓄のある言葉だ。

 

「芸人は、米1粒、釘1本もようつくらんくせに、酒が良えの悪いのと言うて、好きな芸をやって一生を送るもんやさかいに、むさぼってはいかん。

 

ねうちは世間が決めてくれる。

 

ただ一生懸命に芸をみがく以外に、世間へのおかえしの途はない。

 

また、芸人になった以上、末路哀れは覚悟の前やで。」

 

  ご子息が学芸員として企画したからこそできる見ごたえのある展覧会だ。

 

  愛と誇りがある。

 

この展覧会は、巡回しない。

 

お見逃しなく。

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☆構成

 

 プロローグ

 

  Ⅰ 生い立ち

 

  Ⅱ 上方落語への想い

 

  Ⅲ 発展期

 

   Ⅳ 円熟期

 

   エピローグ

 

☆出展資料

 

・口演やマスコミ活動の写真・映像・記録媒体、公演記録

 

      ・落語・演芸・上方文化などに関する著作や原稿

 

      ・ポスター、チラシ、演芸資料、聞き書きノート

 

      ・書簡・対談集・句集・雑誌上方風流

 

      ・家族・友人・一門との写真

 

      ・勲章・トロフィー・賞状

 

会 期:平成29128日(土)~320日(月・祝)(開催日数45日間)

 

休館日:月曜日(320日は開館)

 

開館時間:午前10時~午後5時(入館は午後430分まで)

 

会 場:兵庫県立歴史博物館 ギャラリー

 

    (〒670-0012 姫路市本町68番地 ℡ 079-288-9011

 

 

 

主 催:兵庫県立歴史博物館、株式会社米朝事務所

 

後 援:兵庫県、兵庫県教育委員会、姫路市、姫路市教育委員会、尼崎市、尼崎市教育委員会、

 

    国際日本文化研究センター、姫路商工会議所

 

    朝日新聞社、神戸新聞社、産経新聞社、日本経済新聞社、毎日新聞社、読売新聞社

 

    朝日放送、NHK神戸放送局、関西テレビ、KBS京都、サンテレビジョン、テレビ大阪、

 

    毎日放送、読売テレビ、ラジオ大阪、ラジオ関西

 

協 力:山陽電気鉄道株式会社、株式会社山陽百貨店、神姫バス株式会社

 

    姫路勤労者音楽協議会(姫路労音)、兵庫県立尼崎青少年創造劇場(ピッコロシアター)

 

    兵庫県立姫路中学校・兵庫県立姫路西高等学校同窓会「白城会」、JTB西日本姫路支店

 

協 賛:株式会社御座候、株式会社本田商店、株式会社石隆

 

 

 

【観覧料金】

 

 大人 1,200(1,000)、大学生 900(700)、高校生 600(500)、小・中学生 無料

 

※( )内は20人以上の団体料金

 

※障がい者及び65歳以上の方は半額。障がい者1人につき、介護者1人は無料。

 

☆座談会「米朝資料から見えてくるもの」

 

  日 時: 312()  午後2時~330

 

   講 師:小澤紘司氏(上方落語研究家)

 

        古川綾子氏(国際日本文化研究センター特任助教)

 

   聞き手:中川 渉(兵庫県立歴史博物館学芸員)

 

   場 所:兵庫県立歴史博物館 地階ホール(無料、申込不要)

 

   入場料:無料

 

   定 員:100名(先着順)

 

☆米朝アンドロイド落語実演

 

   日 時: 320日(月・祝)

 

      ※いずれも ①午前11時 ②午後1

 

               ③午後2時  ④午後3

 

               ⑤午後4時(各回1520分)

 

   場 所:兵庫県立歴史博物館 ロビー(自由観覧、無料、申込不要)

 

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☆担当学芸員による展覧会ガイド

 

  日 時:318日(土)

 

       ※午後2時~

 

   場 所:兵庫県立歴史博物館 2階ギャラリー(特別展観覧料が必要、申込不要)

 

 

 

☆歴史の旅「上方落語地図を歩く」

 

  大阪市内の上方落語ゆかりの地を、学芸員が案内・解説。

 

   日 時: 317() 午後0時~4

 

   案 内:中川 渉(兵庫県立歴史博物館 学芸員)

 

   目的地:大阪市北区~天王寺区周辺(約5km)

 

   定 員:30

 

    こちらは、応募を締め切っているため、現在は申し込み不可。

 

 

 

☆兵庫県立歴史博物館ホームページ

 

         http://www.hyogo-c.ed.jp/~rekihaku-bo

 

 

 

☆読者プレゼント 

 

   1020名様にご招待券 プレゼント

 

   あて先 :loewy@jg8.so-net.ne.jp

 

   件名:展覧会名と会場名

 

   本文:ご住所、お名前

 

   をお書きの上どしどしご応募下さい。

 

       締切:http://art-news-jp.jimdo.comにてUPした日の午前零時

 

   送達対応いたします。

 

   発送をもって当選と代えさせていただきます。

 

  

 

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